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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)9167号 判決 1998年1月30日

原告

小野治子

ほか二名

被告

有限会社大谷商店

ほか一名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告小野治子に対し、各自金三八五万円、同小野一雄に対し、各自金一九二万五〇〇〇円、同南治美に対し、各自金一九二万五〇〇〇円及びこれらに対する平成七年八月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、普通乗用自動車と衝突して死亡した原動機付自転車の運転手の遺族が、普通乗用自動車の運転手に対し、民法七〇九条に基づき、自動車の保有者である会社に対し、自動車損害賠償保障法三条に基づき、それぞれ損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含み、( )内に認定に供した証拠を摘示する。)

1  本件交通事故

(一) 日時 平成七年八月二一日午前八時三〇分ごろ

(二) 場所 和歌山市鷹匠町四丁目三一番地路上

(三) 加害車 被告有限会社大谷商店(以下「被告会社」という。)が保有し、被告芝本勇(以下「被告芝本」という。)が運転する普通貨物自動車(登録番号 和歌山四五せ八一七四、以下「被告車」という。)

(四) 被害車 訴外小野定福(以下「定福」という。)運転の原動機付自転車(登録番号 和歌山市ヨ九六五二、以下「定福車」という。)

(五) 態様 南北に走る道路を定福が定福車に乗って東方向に伸びる道路に入るため南西から北東にかけて走行していたところ、被告車と衝突した。

2  定福の受傷及び死亡

定福は、本件交通事故により、頭蓋骨骨折、脳挫傷の傷害を負い、平成七年八月二五日、死亡した。

3  相続

原告小野治子は定福の妻、原告小野一雄及び原告南治美は定福の子である(弁論の全趣旨)。

4  損害てん補

原告らは、本件事故に関し、自賠責保険から三〇七五万二六四一円の支払いを、被告から六九万五〇三一円の合計三一四四万七六七二円の支払を受けた。

二  争点

1  被告らの責任

(原告らの主張)

(一) 被告会社の責任

被告会社は、被告車の保有者であるから、被告会社は、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条により、原告らが被った損害を賠償する義務がある。

(二) 被告芝本の責任

被告芝本は、適切な速度を維持すべきであるのにこれを怠り、左方及び前方を十分に注意して進行しなければならないのにこれを怠り、本件事故を発生させた過失があるから、民法七〇九条により、原告らが被った損害を賠償する義務がある。

(被告らの反論及び主張)

(一) 被告芝本は、制限速度内の速度で走行していたものであり、本件事故は定福が、中央分離帯の切れ目に向かって、被告車とその先行車との間に割って入る形で、鋭角に第一車線から第二車線に進入しようとしたために発生したものであって、被告芝本には過失がない。

(二) 仮に、被告芝本に過失があるとしても、定福は、優先道路である被告車が走行していた道路に出て、更に、道路の切れ目に向かって進んだものであって、他車の進路を塞ぐ可能性が極めて高かったことからすれば、定福の過失割合は少なくとも七〇パーセントというべきである。

2  損害

(一) 治療費(当事者間に争いがない。)六九万五〇三一円

(二) 入院雑費(当事者間に争いがない。) 六五〇〇円

(三) 入院付添費 二万七五〇〇円

(四) 休業損害 九万三二六六円

定福は、平成六年に六八〇万八四九〇円の年収(一日当たり一万八六五三円)を得ていたところ、入院期間中の五日間休業し、休業損害を被った。

なお、平成五年一月から平成七年七月までに定福名義の口座に入金されていた金額を基に経費率一一パーセントを乗じて年収額を算定すれば、七〇三万四七〇二円(一日当たり一万九二七三円)となり、右金額を上回っている。

(五) 逸失利益 三四六八万六五三三円

定福の平成六年の収入を基礎に控除すべき生活費を三〇パーセントとみて、新ホフマン式計算法により就労可能年数九年に対応する年五分の割合による中間利息を控除して、右期間の逸失利益の現価を算定すると右のとおりである。

(六) 葬儀費用 三〇〇万〇〇〇〇円

(七) 慰藉料 二六〇〇万〇〇〇〇円

(八) 弁護士費用 七〇万〇〇〇〇円

第三争点に対する判断

一  被告らの責任及び過失割合

1  証拠(甲第一、第一四、検甲第一から第一一まで、乙第一から第三まで、第五の一及び二、原告小野一雄、被告芝本)によれば、

本件事故現場は、南北方向に伸び、歩車道の区別がある片側二車線の道路の北行車線上であって、北行車線は幅員八・六メートル(道路外側線外側部分二メートルを含む。)で、最高速度は時速五〇キロメートルに速度が制限され、事故現場付近は市街地にあり、道路の見通しは良く、付近の道路はアスファルト舗装され、平坦で、本件当時は乾燥していたこと、

被告芝本は、本件事故当時、被告会社の仕事である青果の配達の途中であって、南北道路を、先行車と二〇ないし二五メートルの車間距離で、時速四〇から五〇キロメートルの速度で追従北進していたところ、別紙図面の<2>地点(以下地点符号のみを示す。)で、定福車<ア>を発見し、急ブレーキをかけ、ハンドルを右に切ったが、<3>で被告車の左前角付近と<イ>の定福車の右側面付近とが<×>で衝突したこと、

被告芝本は、定福車が<ア>地点に至るまで、これを発見していないこと、被告芝本は、定福車の方が被告車よりも速いと考えたが、その理由は定福車が被告車よりも前に位置していたからであること、

定福は、衝突後、定福車と共に<ウ>付近に転倒し、被告車は<4>に、中央分離帯の路面から約二二センチメートルの高さの縁石に乗り上げて停止したこと、

本件現場の路面には、被告車の右側車輪のスリップ痕九・二メートル、左側車輪のスリップ痕二・六メートルが、また、定福車によるものと思われる路面擦過痕が、更に、擦過痕の終端付近の路面にはオイル痕と思われるしみ、定福の転倒していた付近の路面には血痕と思われるしみがそれぞれ印象されていたこと、定福車の方向指示器のスイッチレバーは中立であったこと、等の事実を認めることができる。

なお、原告らは、実況見分調書の交通事故現場見取図の記載上、被告車は、衝突直前には原告車の二・四倍の速度で走行していたと解され、被告車が乗り上げたと見られる中央分離帯の数個の縁石上には、新しいスリップ痕が印象され、中央分離帯内の植え込みが傷んでいなかったことや現場の擦過痕等を総合すれば、被告車は定福車と衝突し、中央分離帯の縁石に乗り上げ、更に原告車にも乗り上げて進行した後停止するに至ったものであって、被告車の速度は少なくとも時速七〇キロメートル以上であった旨主張し、証拠(検甲第三から第五まで、原告小野一雄)中にはこれに沿う部分がある。

しかし、被告車が定福車と衝突後、中央分離帯の縁石に乗り上げ、原告車にも乗り上げた上進行して停止したという点については、なるほど、中央分離帯の、被告車が乗り上げたと見られる位置から数個先の縁石上には、黒色の帯状痕が印象されているのが認められるけれども、これが被告車の右車輪のスリップ痕であるか否かについては明らかではないといわざるを得ないし、本件事故発生直後である平成七年八月二一日午前八時五〇分から午前九時三〇分までの間に実施された実況見分に基づく実況見分調書の記載上は被告車の停止位置を<4>としていること、被告芝本は、事故発生後警察官が到着するまで被告車を移動させていないこと等に照らせば、原告らが主張するように、被告車が中央分離帯の縁石に乗り上げた上、更に進行して停止したと解することはできない。

そうであるとすると、被告車の速度が少なくとも時速七〇キロメートル以上であった旨の原告らの主張に与することはできないといわざるを得ない。

2  右の事実によれば、被告芝本が、進路の左前方を十分に注意していれば、被告車の進路を横切るように原告車が進行してくるのを、<2>地点に至る前の段階で発見することができたものであったところ、右の注意を怠り、本件事故を発生させた過失があるといわなければならない。

他方、定福は、本件道路の北行車線を横切るように走行していたのであるから、特に右後方から走行してくる車両の有無、動静に注意を尽くすべきであるのに、これを怠った過失があるといわざるを得ず、これに原告車及び被告車の車種等も併せ考慮すれば、被告と定福の過失割合は、定福の六、被告の四と解される。

二  損害

1  治療費 六九万五〇三一円

当事者間に争いがない。

2  入院雑費 六五〇〇円

当事者間に争いがない。

3  入院付添費 二万五〇〇〇円

前記争いのない事実等及び証拠(甲第二、第三、原告小野治子)によれば、定福は、本件交通事故により、頭蓋骨骨折、脳挫傷等の傷害を負い、平成七年八月二一日から同月二五日までの五日間入院し、同日死亡したこと、原告小野治子は、定福の右入院期間中これに付き添ったことが認められ、定福の傷害の程度等に鑑みれば、二万五〇〇〇円をもって相当と解する。

4  休業損害 六万三六八三円

証拠(甲第七から第八の一二の六まで、第一〇から第一三まで、原告小野治子、弁論の全趣旨)によれば、定福(昭和七年一月一日生まれ、本件事故当時六三歳、男性)は、昭和二七年ごろから、兄である小野寛と共に洋樽の製造販売、補修に従事し、平成元年からは自宅兼店舖で一人でこれに従事していたこと、本件事故当時、和歌山県下では唯一人の洋樽職人であったこと、定福は銀行に二つの口座を設け、一方の口座には、平成五年一月から同年一二月までに六九九万五五二九円、平成六年一月から同年一二月までに六三五万五六六〇円、平成七年一月から同年七月までに四四三万五九二〇円、他方の口座には、平成五年一月から同年一二月までに一三六万三五八〇円、平成六年一月から同年一二月までに八七万七一〇〇円、平成七年一月から同年七月までに三九万一三〇〇円の入金があったこと、後者の口座からは、平成五年四月一五日国税他として二万九一〇〇円が、平成六年四月一八日申告所得税として三万三六〇〇円が、平成七年四月一八日、同じく二万八六〇〇円が引き落とされていること等の事実が認められ、平成七年度賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計の六〇歳から六四歳の平均年収四六四万八九〇〇円であることは当裁判所に顕著な事実であり、右の事実によれば、原告は、本件事故当時、右の平均年収程度の収入は得ていたものと解され、定福は、本件事故当時、入院期間中の五日間に休業損害六万三六八三円を被ったものということができる(円未満切り捨て。以下同じ。)

なお、原告らは、定福は取引先から大切に扱われ、その平均年収は約七九〇万四一六〇円であり、仕事の内容はほとんど材料費がかからないもので、経費率は一一パーセントであった旨主張し、証拠(甲第七、第八の一から第八の一二の六まで、原告小野治子)中にはこれに沿う部分があり、定福が職人的技術を有し、和歌山県下でも唯一人の洋樽職人として、その技術が評価されていたことや樽の補修には樽の製造の際余った木ぎれを利用していたこと等をうかがうことができるけれども、小野治子は、経費率の基となる、材料費として甲第八に書き込まれた金額は、小野寛が出したものであって、小野治子自身は、それぐらいかという程度で、数字は分からない旨供述していること、右の材料費そのものについて、これを裏付ける証拠がないこと等に鑑みると、前記の部分を採用することはできないといわざるを得ず、原告らの主張を認めることはできない。

5  逸失利益 二一四三万八八六七円

前記4の事実及び証拠(甲第一三、原告小野治子、弁論の全趣旨)によれば、定福は、本件事故当時、妻である原告小野治子と暮らし、生活費は定福の収入及び小野治子の内職で賄っていたこと、定福には平均賃金程度の年収があったこと等の事実を認めることができ、平成七年簡易生命表によると六三歳男性の平均余命は一七年間(年未満切り捨て)であることは当裁判所に顕著な事実であり、右の事実によれば、定福は本件事故に遭わなければ更に約八年間は稼働することが可能であったと解され、前記の年収額を基礎に、生活費として三割を控除するのが相当であるから、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して、右期間の逸失利益の現価を算定すると、右のとおりとなり、原告らの主張は、その限度で理由がある。

(算式)4,648,900×(1-0.3)×6.588

6  葬儀費用 一五〇万〇〇〇〇円

葬儀費用は右額をもって相当と解する。

7  慰藉料 二四〇〇万〇〇〇〇円

定福が本件事故により死亡したこと、本件事故の態様、定福の年齢、社会的地位等一切の事情に鑑みれば、慰謝料は二四〇〇万円が相当である。

三  前記争いのない事実等によれば、原告らは本件事故の損害てん補として合計三一四四万七六七二円の支払を受けたものであるところ、前記二の定福の本件事故による損害合計額四七七二万九〇八一円から前記一の過失割合により過失相殺による減額を行うと残額は一九〇九万一六三二円となり、右は既にてん補されていることとなる。

四  以上のとおりであって、原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石原寿記)

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